東京大学日本語教育センター|Center for Japanese Language Education,the University of Tokyo

動詞とその活用

「日本語学習入門」へ戻る

日本語を勉強してまだごく初めのうちは、動詞の勉強はとてもやさしそうに見えます。「飲みます・飲みました・飲みません・飲みませんでした」。現在も過去も肯定も否定も、nomimasというところまで一緒で、その先がちょっと変わるだけ。これで大抵のことが言えそうだな。日本語は結構簡単そうだ……。

ところが、少し経つと、「飲む」「飲まない」「飲んで」と、いろいろな形が出てきて、不変化の部分は、nomまでしか(「飲んで」の場合はnoまでしか)保たれません。こんなに変わるんじゃ、かなわないな……。これまで習ってきた「飲みます・飲みました・飲みません・飲みませんでした」は、要するに「飲みます」の系列だったから揃っていたけれど、なんだ、「飲みます」の系列のほかにも、いろいろな形があるんだ。やれやれ……。

というわけで、このころから日本語が身につかなくなってしまう人が結構いるのですが、実は、この時期-動詞の変化の初歩を勉強する時期-がいちばん大事な時期なのです。この時期の勉強のポイントを中心に、このページでは動詞の話をしましょう。

1.動詞がさまざまに変化する

前のページでは、日本語の文法上の特徴をいくつかあげましたが(「日本語って、どんな言葉?」)、その一つとして、動詞の後にさまざまな要素が付く言語であることを述べました。

否定や時制だけでなく、たとえば可能・使役・受身・モダリティ(英語でいえば、may,must,let'sなどのような意味)などをあらわす要素も、動詞の後に付きます。前回あげた「飲む」drinkで、復習も兼ねて例をあげてみると、「飲まない」(否定)、「飲んだ」(過去)、「飲んでいる」(進行)、「飲める」(可能)、「飲ませる」(使役)、「飲まれる」(受身)、「飲むだろう」(推量)、「飲もう」(意志)……などとなります。

また、前回は触れませんでしたが、2つの節を接続するとき、前の節の動詞が、2つの節の関係に応じて形を変えます。たとえば、「飲めば」(if I drink)、「飲むので」(because I drink)……というようにです。 そして、これらのさまざまな要素を組み合わせた形、たとえば「飲めなかったので」(because I couldn't drink,可能+否定+過去+理由)のような形も、ごく普通に使われます。

このようなさまざまな要素まで含めて動詞と捉えるとすれば、日本語の動詞は、まことにさまざまに変化することになります。

2.基本的な4つの形

そこで、日本語の勉強では、このような動詞の変化のさせ方(「活用」と呼んでいます)を身につけていくことが重要になります。大変そうに思えるかもしれませんが、ルールをしっかりおさえながら慣れていけば、難しいことではありません。今日は、いくつかのポイントをアドバイスしましょう。

動詞の変化形は、今触れたような複雑に組み合わせたものまで数えれば、とてもたくさん種類があることになりますが、基本的なものだけならば、そう多くはありません。中でも、次の4つの形が最も基本的なものです。「飲む」drinkと「食べる」eatを例として、示しましょう。

(1) 辞書形(例「飲む」「食べる」)
(2) マス形(例「飲みます」「食べます」)
(3) ナイ形(例「飲まない」「食べない」)
(4) テ形(例「飲んで」「食べて」)

このうち(1)は辞書に載っているいわばinfinitiveにあたる形、(3)は否定形、(2)(4)は使用頻度のとても高い形です。この4つの形をここでは基本4形と呼ぶことにします。(初めに習う「飲みます・飲みました・飲みません・飲みませんでした」が基本4形なのではありません。これらはみな上の(2)の系列です。ほかに(1)(3)(4)の3系列を加えて、基本4形ということになります。)

この4形をきちんと身につけてしまえば、これ以外の形に広げていくことは、それほど困難なことではありません。一方、この4形がしっかり身についていないと、その先の上達は、まず期待できません。基本4形(特にいちばん厄介な(4)のテ形)をしっかり身につけることが、最初級段階の最も大切な学習課題だといってよいでしょう。冒頭で、「動詞の変化の初歩を勉強する時期が、いちばん大事な時期」だと言いましたが、それは、この「基本4形を勉強する時期」ということです。この時期が、日本語学習の成否を分ける最初の勝負の時期なのです。

しかし、心配することはありません。この4つの形の作り方(活用の仕方)にはちゃんとルールがあるので(それについては教室で勉強してください)、それをおさえながら慣れていけば、問題なく習得することができます。ルールをきちんと勉強しなかったり甘く見たりすると失敗する、というだけのことです(もっとも、そういう学生が時々いるので、この文章を書いているわけですが)。

3.活用のタイプ - タイプ I とタイプ II -

ところで、今、「飲む」と「食べる」という2つの動詞を例に、それぞれの基本4形を示しましたが、これを

「飲む・飲みます・飲まない・飲んで」
「食べる・食べます・食べない・食べて」

と並べて比較してみると、「飲む」と「食べる」とでは変化(活用)の仕方が違うことに気づくでしょう。ルールがあるといったではないか、これは何事だ、と思われるかもしれませんが、実は、「飲む」と「食べる」とでは、活用の仕方のタイプが違うのです。「飲む」を「タイプI」、「食べる」のほうを「タイプII」と呼ぶことにしましょう。母音が変わるタイプと、変わらないタイプです(伝統的な文法用語を知っている人のために注釈を加えると、前者はいわゆる五段活用、後者はいわゆる一段活用です)。それぞれのタイプごとに、それぞれのルールにしたがって変化するのです。

一体いくつタイプがあるんだろう、10も20もあるのなら日本語なんか勉強しないよ、という声が聞こえてきそうですが、ご心配なく。ほとんどの動詞は「タイプI」か「タイプII」のどちらかです。このほか「タイプIII」もありますが、これに属する動詞は「する」do、「来る」comeの2語(と、その複合語)だけなので、すぐ識別できますし、例外と位置づけてもよいものです。これ以外のすべての動詞は、「タイプI」か「タイプII」のどちらかに分けられるのです。動詞の変化のタイプが何十とある言語もあるのですから、それに比べて日本語はかなり学習しやすい言語だと思います。

4.活用のタイプの識別

さて、そうすると、大事なことは、この2つのタイプの識別ということになりますね。どちらのタイプかを認識せずに変化させると、活用のさせ方を間違ってしまうことになります。どうしたらいいでしょうか。ですが、これもご心配なく。実は、この2つのタイプを識別するには、また、ちゃんとルールがあるのです。

辞書形の最後の3つのアルファベットが-eruか-iruならばタイプII、そうでなければタイプI

というルールです。たとえば「okiru(起きる)」〈get up,wake up〉や「neru(寝る)」〈go to bed, sleep〉はタイプII、「hanasu(話す)」〈speak〉や「kiku(聞く)」〈listen,hear〉はタイプIです。こうして識別した上で、それぞれのタイプのルールに応じて変化させればいいわけです。

5.辞書形に慣れよう

ついでながら、タイプIIかの識別は、辞書形からだと、このようにしてできるのですが、マス形からだと、識別することはできません。-emasuならタイプIIなのですが、マス形が-imasuだと、タイプIかIIか、識別できないのです。たとえば、okimasuの場合、タイプI(辞書形oku)か、タイプII(辞書形okiru)なのか、両方の可能性があります。この場合、実際、「置く」put on、「起きる」get up, wake upという両方の動詞があります。実際には片方しかない場合ももちろんたくさんありますが、そのどちらであるか、わからないわけです。

結論として、動詞の活用のタイプの識別は、マス形から識別しようとしても無理で(無理な場合があり)、辞書形に基づいて識別するのがよい、ということになります。言い換えれば、《辞書形を覚えれば、自動的に活用のタイプもわかる》わけです。ですから、《動詞を語彙として覚える場合は、辞書形を覚えるべきだ》ということになります。

日本語学習の最初期は、(一般的な教え方の場合)しばらくの間マス形だけを勉強する時期があるため、その後まもなく辞書形を習うようになってからも、皆さんの中には、「辞書形をもとに考える」という習慣がなかなかつかず、いつまでも「マス形が、いちばんなじみのある形。まずマス形を覚え、いつもマス形をもとに考えて、他の形もすべてマス形をもとに作る」というタイプの人がいます。しかし、「辞書形をもとに考える」ように、早く切り替えることをおすすめします。辞書を引く上でも、上述のように活用のタイプを識別する上でも有効だからです。日本語のネーティブスピーカーは「辞書形をもとに考える」思考法が身についているわけで、留学生の皆さんも、同じ思考法に慣れていくことが、結局上達につながるように思います。(日本語教育センターでは、最初期から辞書形を教える方法で効果をあげています。)

6.識別の例外

「ここまではわかりましたが、さっきの識別のルールに例外はないのですか。」って? うーん。正直に言いましょう。例外は、実は結構あります。例外というのは、「辞書形の最後の3つのアルファベットが-iruか-eruなのに、タイプIであるもの」が存在する、ということなのですが、日本語全体では結構あるものの、初級の動詞の中ではごくわずかで「帰るreturn・入るenter・走るrun・切るcut・知るknow」の5語、もう少し多めに見ても10語程度です。特に多いとも思えませんが、いかがですか。(日本語の伝統的な文法をよく知っている人のために補足すると、今あげた「識別の例外」は「ラ行五段活用の動詞で、ルの前の母音がiまたはeであるもの」にあたります。活用の仕方自体が変則的なわけではなく、形の上で一段動詞と紛れやすいために注意を要する、というタイプの動詞です。)

7.テ形の習得がその後の勉強の成否を分ける

このように、辞書形をもとに活用のタイプを識別した上で、それぞれのタイプのルールに応じて基本4形を作れるようになればいいわけですが、4形のうちいちばん大変なのは、テ形です。というのは、テ形の作り方については、タイプIの中がさらにいくつものサブタイプに分かれるからです。詳しくは、教室で勉強してください。しかし、これも、ルールははっきりしているので、ルールをしっかりおさえながら練習を重ねることです。テ形は、「……ている」be…ing、「……てください」please…、「……てもいい」may、その他さまざまな用法で使われ、とても使用頻度が高いので、初級前半でテ形がすらすら作れるようになることは、その後の日本語の上達にとって必須の条件です。基本4形の中でも、最も大変で、また使用頻度も高いテ形をしっかり習得できるかどうかは、その後の勉強の成否を分ける、初級での最重要のポイントといってよいでしょう。

以上、長くなりましたが、重要な〈動詞の活用〉の話をしてきました。ルールをしっかりおさえて理詰めで学習する面と、練習や慣れによってそれを確かなものにしていく面と、両方が必要です。ぜひ、がんばってください。

大事な点のまとめ : 日本語学習へのアドバイス(2)
動詞の活用は最初級の最大のポイント。
1. 活用のタイプを識別する(ルールがある)。
*辞書形をもとに識別する。。
2. それぞれのタイプの基本4形の作り方を習得、習熟する(ルールがある)。
3. 辞書形をもとに考える習慣を身につける。

(以上は、「東京大学日本語教育センター・ニュース」34号に掲載の菊地康人〈本センター教授〉「日本語の特徴を知って効果的に勉強しよう(2) 動詞とその活用」とほぼ同じ内容です。)

このページのトップへ